
しなやか広場
2016年06月
私のエッセイ雑記帳(その62)
こころ豊かな国のリーダーとは?
〜ムヒカ氏とトランプ氏、それに・・・〜
ライフワーク研究家 中村 義(なかむら ただし)
年初め、「今年2016年は、9年に一度の良い年である」と書いた。
ところが、5か月経った今、振り返ってみると、良いニュースはまことに少なく、熊本地震という大災害を含み、他にも悪いニュースばかりが目立っている。
そうした中で、とてもホットするうれしいニュースが届いたとき、「こんな素敵な人がいたのだ」と素直に感動させられたのである。ご存知、南米ウルグアイの元大統領のホセ・ムヒカ氏(80歳)の来日である。
2012年、ブラジルで開催された「国連持続可能な開発会議」での彼の演説は、当時、世界的な注目を集めた。とてもシンプルだが「より便利で、より豊かで、私たちは幸せになったのか」という根本的なこの問いかけに、大きな反響を呼んだのである。
このことについて、当時の日本のマスコミ界は、あまり大きく取り上げなかったと記憶している。だから私自身も恥ずかしながら、今回の訪日で彼の存在を初めて知ったのである。
「人生で最も重要なことは勝つことではなく歩み続けること、やり直す勇気をもつこと、そして自分にとっての幸せを考えて自分を変えることである。世界を変えられるわけではないが、自分を変えることができる」という言葉に感動させられた。
「私は貧乏ではない。質素なだけだ」という彼に“世界で一番貧しい大統領”という失礼な表現は当たらない。私は“世界一質素で賢明な大統領”と声を大にして言いたい。
「人はわずかなものしか持っていなくても幸せになれる」という言葉にも、とても深い意味が隠されている。
多くの学生たちに向かって「私の考え方が日本文化の根底と通じる部分があるのではないか。日本は優れた工業先進国であり、だからこそ日本に質問したい。人類は、世界の将来は、どこに向かうのかと」、こう彼は述べた。最後の短い問いかけには、とても深いものがあることを学生たちは、日本の将来を背負う自分のこととして、大切に受け止めたものと、期待したい。
私は、このところ「人間の本当の幸せとは何か?」について考えることが多くなっているが、一般に世間で言うところの便利さ、速さ、物欲、名誉などについて、今一度改めて真剣に考え直す時期に来ているのではないかと思う。
たとえば、IT分野などでは便利すぎるシステムや商品について、正直そこまで必要なのか?ということや、以前にも書いたことがあるが、リニア新幹線で東京―大阪間を1時間で走らせることに意味があるのか?(この計画路線には、数多くの活断層が存在する)などという身近な現実や計画について、一般の国民目線でまじめに議論する必要性を諦めてはいない。なんと最近、政府はこの事業に2兆円もの予算を出すなどというとんでもないことを言い出している。
アメリカ合衆国では、次期大統領選挙に向けての激しい競争が展開されているが、とりわけ、あの共和党候補者となったドナルド・トランプ氏の発言には驚きを隠せない。
こういう候補者が世界のリーダーの仲間入りをすることになれば、一体、国際社会は安心していられるのか。他人事ではない。彼の言動や行動には、賛否いろいろな意見があることは承知しているが、ここでも“物欲”という言葉がすっと頭をよぎるのである。
そのような中で、最近、この国を預かるトップ政治家の言動が微妙に揺れ動いているというか、はっきり言って「ごまかしの論理」のような雰囲気があり、理解に苦しむ場面も見受けられるのには、情けない気がしてならない。
そう、これまで事あるごとに声高に掲げてきた「必ず実行すると大見えを張った消費税10%への増税問題」である。サミット開催を利用したといわれても仕方がないとしか思えない。この増税先送り発言という180度方針転換は国民に対する裏切り行為とも言える。全く反省するそぶりも見せず、その説明の中で総理は、これまでの約束とは異なることについて、「新しい判断」という名文句(迷文句)を考えて、いつもの国会答弁よろしく、得意のごまかし答弁を行ったのである。
私たちは、他国の行政トップ・リーダーたち、とりわけムヒカ氏から学ぶべき大切なことをしっかりと受け止め、そして、この国のリーダーが誰であろうとも「国民の安全・安心、そして何よりも心豊かな暮らしとはなにか?」という当たり前のテーマについて、もう一度真剣に考え、行政マンたちには、多くの国民の生の声を真摯に受け止めたかたちの政策を練り直してもらいたいと切に願う。
最後に、私の好きな言葉「まだ間に合う、やればできる」をこの国のリーダーへ贈ることにする。
(余談−1)関連する情けないニュース
東京都知事のスキャンダルというか、まことに情けないニュースが連日、報道され続けている。もううんざりの連続である。顔がアップにされるたびに気持ちが悪くなるのは私だけだろうか。
この原稿が掲載されるころには、どうなっているか判らないが、ムヒカ氏のような素晴らしく質素な生きざまをもった新しい知事が誕生していることを、心から願いたいのである。
(余談―2)決して謝罪しない人たち
トランプ大統領候補者、安倍総理、舛添都知事に共通する点は、ただひとつ「決して素直に謝罪しない」という哲学?を生まれながらに持っているということだ。その人格が気になる。
トップに立つ政治家たちは、決してごまかしたり、話をすり替えたりしてはいけない。でも、まことに残念ながら、変なプライドがその邪魔をするのであるから始末に悪い。尊敬される人の顔は、誰が見ても美しいのである。
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