
しなやか広場
2016年09月
私のエッセイ雑記帳(その64)
改めて偉人、司馬遼太郎を想う
〜没後、20年の今〜
ライフワーク研究家 中村 義(なかむら ただし)
私が最も尊敬する偉大な作家、司馬遼太郎さんが亡くなって、今年2016年は、20年の節目にあたる。
拙書『会いたかった人、司馬遼太郎』(文芸社)を出版したのが、2012年2月12日(2月12日は司馬さんの命日)であり、その後も引き続き、ことあるごとに司馬さんの生きざまを追いかけている。
今、この時期、再び司馬さんの作品群が若者を含む多くのファンに読み続けられていることは、まことに嬉しいことである。
長編3大作品と評される『竜馬がゆく』『坂の上の雲』『翔ぶが如く』は、司馬さんが、それぞれ39歳、45歳、49歳の頃から、いずれも4年ほどの歳月を費やして完成された作品であることは、これらはいかに大作であるかという証でもある。
先の拙書の帯に「お気に入りの3作品から1文字ずつとったペンネーム「坂上翔馬」をひそかに考えるほど熱烈な司馬ファンの著者から、天国の司馬遼太郎とすべての司馬ファンに贈る熱きオマージュ」と印刷されていることを、いま改めて思い出している。
「二十一世紀にあっては、科学と技術がもっと発達するだろう。科学・技術がこう水のように人間をのみこんでしまってはならない。川の水を正しく流すように、君たちのしっかりした自己が、科学と技術を支配し、よい方向にもっていってほしいのである」
この文章は、1989年に大阪書籍という教科書会社から「小学生の子どもたちにメッセージを書いてください」と依頼された司馬さんが、快く引き受けて執筆した『二十一世紀に生きる君たちへ』というエッセイからの抜粋である。
小学国語6年下に掲載された400字詰原稿用紙で10枚ほどの短い作品であるが、子ども向けどころか、多くの大人にも読んで欲しい作品である。とりわけ最近、目に余る失態続きのこの国の行政を預かる大臣や国会議員たちに読んで欲しい必読の書でもある。
「もう一度くり返そう。さきに私は自己を確立せよ、と言った。自分にきびしく、相手にはやさしく、とも言った。いたわりという言葉も使った。それらを訓練せよ、とも言った。それらを訓練することで、自己が確立されていくのである。そして“たのもしい君たち”になっていくのである」
この文章からも司馬さんが言う、共感性、いたわり、自己の確立、たのもしい人格などがキーワードとして読み取れる。
これらの短い文章に込められた司馬さんの思いを、いま大人たちもしっかりと受け止めて、この国を本当の意味での正しい方向に導いて欲しいのである。
この『二十一世紀に生きる君たちへ』は、1989年(平成元年)司馬さんが66歳の時に教科書「小学国語6年下」として書き綴った作品であり、極めて珍しいものである。いま、大学生すら殆ど本を読まないという読書離れの傾向が顕著にみられるという情けない状況にある。先にも言ったように、大人たちにも子どもたちと一緒に是非読んで欲しい一冊である。
(余談)「ポケモンGO」に違和感あり
IT社会に突入して世の中のかたちが可笑しく見えることも少なくない。たとえば、今世界中に爆発的に流行しているスマホ利用の「ポケモンGO」のようなものは、本当に問題であると言えるのではないか。勝手に他人の住宅地などに侵入してくることは、住居侵入罪ではないか。こうした状況をゲーム作成業者は、本当に真剣に検討したうえで配信・提供しているとは思えない。
楽しさや便利さや気軽さが優先され、肝心の大切な理念をないがしろにしてはいけない。この辺で、もう一度、基本的なこと大切なことを真摯に考え、便利・利益優先が本当に人間にとって素敵なことなのかと声を大にして問いかけたいのである。
このことを皆さんは、どう感じておられますか?
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