しなやか広場

2007年12月

理事のリレーエッセイ No.2

「家事調停」雑感

副理事長:上平慶一

サラリーマンとしての仕事も終わり、自由人となって1年後の64歳から、先輩からの薦めもあり、現在まで家庭裁判所の家事調停委員を務めている。一応、非常勤ではあるが、身分としては国家公務員ということになっており、普通70歳までの任期となっている。

ただ、調停委員というのは、あまり人に宣伝するものでもないので、知る人ぞ知るという存在であろう。また、調停というのも普通の人には縁遠い存在と思う。そこで、調停とはどんなものかを、家事調停に絞って、皆様にちょっと紹介してみたい。

写真:PSシニアインストラクターとしても活躍する上平さんPSシニアインストラクターとしても活躍する上平さん調停は、民事調停(簡易裁判所の所管)と家事調停(家庭裁判所の所管)に分かれている。民事調停は、いわゆる消費者金融等からの多重債務者の救済や 交通事故、ご近所間の揉め事の解決が主となっている。一方、私が担当する家事調停では、家庭内や親族間での種々の揉め事を取り扱っている。

現在、日本では調停前置主義といって、離婚などの裁判を希望する場合は、まず裁判所内での調停を行い、そこで纏まらなかった場合(調停では不成立という)でなければ、直接訴訟を提起することは出来ないことになっている。これは世界的にも大変ユニークな制度と言われている。

調停は、原則、裁判官と調停委員(男女がペアで当たる)が調停委員会をつくり、合議制で担当する(実際は、裁判官は多数の事件を掛け持ちするため、重要な場 面を除いて民間人の我々調停委員が対応することになる)。調停は、離婚などの調停を希望する人(申立人という)とその対象者(相手方という)を家庭裁判所 に来てもらい、個室で調停委員が申立人、相手方を交互に呼んで双方の事情を聞く形で進行する。

だいたい全体で2時間、双方約30分前後のヒヤリングを行っている。場合によっては双方を同じ部屋に同時に呼んで行う方法もあり、同席調停と呼ばれるが、通 常は双方の対立が激しいので中々実施は困難である(米国は、民間での調停が盛んであるが、同席調停が一般的であるといわれる。これは、日本と比較し交渉時 の当事者間のメンタリティーの違いによるのであろうか)。

調停で双方の 合意が出来た場合(成立という)には、裁判の判決に相当する「調停調書」なるものを作成して終わる。判決に相当するということは、判決と同様の効果がある ということで、もしこの調書で合意された事項が守られなかった場合には、権利者は義務者に対して合意事項の履行を公権力で強制できることになる。例えば、 別れた夫は子供の養育費を負担する義務があるが、その養育費の支払いを怠った場合には、この調書を基に元妻は元夫の給与を差し押さえることが出来るのであ る。

通常、一つの申し立てに要する平均的な調停の回数は、1日を1回と して、4回前後であるが、ケースによっては10回前後になるものもある。筆者の勤務する裁判所では、1回で纏まらなかった場合、次の回の調停日(期日とい う)は約1ヶ月後になるので、回数が多い場合、調停が1年以上に亘る長丁場になる場合もある。
調停委員について述べると、男女とも40歳以上であれば就任可能であるが、男性は弁護士や税理士などの専門を持って若いうちから勤めるキャリアのある人を 除き、大体は定年後になったケースが多いので、60歳以上の熟年者の集まりである。一方、女性の方は年齢的には似たり寄ったりであるが、調停委員を20年 前後も務めている人もおり、結構、委員の控え室では大きな顔をしているように思われる。またそれなりの経験・能力のある人も多い。

尚、 何故男女のペアかということであるが、調停の申し立てで最も多い離婚の場合、やはり妻、夫から話を聞く際には、男女夫々の視点からの判断が求められること から、理にかなった制度であると思う。例えば、妻側から夫のDV(家庭内暴力)による離婚の調停申し立てがあった場合、調停委員が男だけ、または女だけで は申し立ての公平な理解に困難がともなう。やはり、同じ性でなければ分からないことも多いのである。

どんな内容の調停があるのか、これは我々調停委員には厳密な守秘義務があり、具体例を申し上げる訳には行かないのであるが、類型的に言えば、前述のように離 婚の申し立てが一番多い。その他には、離婚に伴う財産分与、慰謝料、養育費、子供との面談(面接交渉という)、親権者の決定、などがある。

また、婚外子の母から実父に対する子供の認知の請求もある。この場合、現在では父母のDNA鑑定を実施しており、この方法では100%に近い確率で実父であ るかどうかが判定される。さらに、遺産分割の調停も守備範囲である。この問題は関係当事者も多く、遺産の対象も多岐に亘るため一筋縄ではいかないケースが 多く、私のような新米委員は大変緊張して処理に当たっている。

 最近のトピックとして新聞でも盛んに取り上げられているものに、年金の分割制度がある。つまり、平成19年4月から離婚した妻は夫の厚生・共済年金の最大1/2 を婚姻継続期間に応じて受け取ることが出来る、というものである。このため、平成17年の離婚件数は約26万2千組でだった。過去最高であった平成14年 の28万9千組から3年連続の減少となっているが、この原因の一つは、いわゆる熟年離婚を希望する妻達が、この制度の適用を受けるためにじっと我慢してい る結果である、という穿った見方もある。

しかし、筆者の経験では、妻側 が離婚を選ぶのは金銭目当てだけでは決してない、と言える。つまり、「今の結婚生活は辛くて、もうイヤである。夫の顔を見るのも耐えられない。お金は(必 要だが)今はどうでも良い。自分の人生をこのまま終わらせたくない。新しい自分の人生を始めたい」という強い決心を持つ人が多いようである。

このエッセイをお読みの読者にはあまり関係のない話題提供かもしれないが、今日もこの国のどこかで、新しい結婚によるカップルが誕生していると同時に、嘗ては偕老同穴を誓った夫婦の離婚の話し合いが進んでいるのである。

(平成19年11月記)


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